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『脱学校の社会』から考える学校化社会

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  • 2017年9月25日
  • 読了時間: 3分

 イヴァン・イリイチの『脱学校の社会』に、興味を惹かれる記述がある。それは、学校化社会における全ての学校が完全に機能した場合、学校化社会は"破綻する"というものだ。

 それは何故か。考えれば簡単なことである。要するに、全ての学校で、全ての授業が完璧に機能し、学習者たちの能力向上が完全に行われた場合、そこには完全な知識・能力平等状態が生まれる。学校化した知識体系においては、あらゆる分野に上限が課される。此処から先は「研究レベル」というわけだ。また、能力についても、創造性は廃される。なぜならこれは個性であり、それを比較検討することはできない。ということは、そのような場合には優秀な生徒と不出来な生徒の相対化が一切できない。要するに、試験に重きを置く学校化社会において、全学校の全生徒が成功例となることは、即ち学校化社会の機能不全を意味する。

 しかしありがたいことに、そんな状況は絶対に訪れない。残念ながら、人類は常に相対的な知的優位者と知的劣等者まで取り揃えてあるのだ。

 ここから言えることは、学校化社会とは、実現不可能な目標を持って機能しているということである。

 国民皆教育は、そもそも近代国家を形成する上で「国家」の一員たる「市民」を育成するためのものである。ここは誰がどんな主張をしていようと、変わらない事実である。教育の国家化、政治化、行政サービス化は、この「より強い集合体を志向する個の育成」を目指す動きの中で自然に出てきた、ある意味チキンレースである。これができない民族は滅びゆく。

 いま、学校教育にはそれ以上に、"妄想"と言えるレベルのあらゆる意味付けが為されている。学校教育は、その人物の人生を成功に導くものなどでは、決してない。本人や家族のためのものではないのだ。まして、企業のためではない。だが、この妄想的意味付けと、完成即ち破綻するという前提を忘れた状態の社会は、ある種の共同幻想を作り出すに至った。

 それは、学校教育の神聖化であり、進歩主義の擬似絶対化である。

 学校が教会のようなものになったことは、イリッチの著作にもあるので置いておく。進歩主義の擬似絶対化とは、簡潔に言えば「人類は進んでいる、ということが当たり前になった」ということだが、これが学校教育とどう関わるのか。ポイントは、「やればできる」ということの擬似絶対化にある。

 勉強して年を経るごとに、学校を小中高大と駆け上がるうちに、ひとは賢くなるのだろうか?それは自明の理だろうか?

 ならなぜこれを読む人間の多くは東大や京大やハーバード大やケンブリッジ大やMITに入学できなかったのだろうか?12年間の小中高教育が機能した人間は「進歩」したはずである。その通り、たしかに人間は年を経ると"思慮深くなる割合が高い"。だが、それと知識・能力の「進歩」とはまるで関係がない。なぜ未だに解決されない倫理的問題や社会問題があるのか。それは、人間の手に負えないものというものも確実にあるからである。その前では「進歩」もへったくれもないはずだ。ところが、我々はいつの間にか、「進歩」に対する盲信を始めた。

 あえて諸問題を解決できたとして、人間は、それで進歩しているのか?それは前に進んだということなのか?わざわざ関係のない苦難を突破したのではないのか?自分で苦労をつくったのでは?

 我々には「やってもできない」場合がある。そのことを意識的に前提においた学校化社会構想を立てなければ、この奇跡的なバランスで成り立ったバカシステムは崩壊する。現に、知識の"活用"を重視した試験を導入しようとする新入試制度は、「やってもできない」ことを「やればできる」と思い込ませようとしている。

 学校化社会を破壊するか、あるいは、より良い(健全な)学校化社会を目指すか。

 おそらくそのどちらも、意識的には行われないであろうし、そもそもどちらも起こり得ないという線が濃厚に思える。


Comments


​書いてる人:シュヴァルツ

​かつて神聖ヴィンラディック帝国で官房長官をやっていたという経歴を持つ既知の外。ヘヴィーメタルをこよなく愛する、ヴィンラディックメタリストでもある。

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